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目を瞑ると自分に笑いかけてくる優志の姿が浮かんだ。今確かに腕の中に本人を抱きしめているのに,どれだけ惚れているのだろう,と胸が熱くなった。
―こんなにも誰かを愛することができるとは,思っていなかった…
恋人の寝息を聞きながら,ブライスは9日間の滞在を丁寧に思い起こした。何度も何度も幸せな瞬間を再生して,ブライスは自分が幸せな男だと思った。
羽田空港の出発ロビーのイスに座り,優志はブライスのスマートフォンに映し出される画像を見ていた。肩を寄せ合い,額がくっつきそうになるほど近づいて見ている。
「松島の俺たち,鼻の頭が赤いな,本当に寒かった」
「そうだな…,赤鼻の優志は良かったけどな…。寒いといえば,スキー場。ほら…」
「何だ,これ?休んでいる俺じゃないか…。格好悪いな…」
「これは,前日に,優志が俺のためにものすごく頑張ってくれた証拠だから」
「……」
無言になってその先を見ている優志から,少しだけ離れて眺める。
―大丈夫そうだな…
仙台を発ってすぐに,遼からメールをもらった。優志がシアトルを離れるときに,端で見ていられないほど悲しみに暮れていたこと。かろうじて,ブライスからのメモを見て元気を取り戻したこと。
今回は十分に愛情の補給をしたし,夏休みには優志がシアトルに来ることになっているし,前回ほど悲しみに襲われることはないだろう,と考えていた。
ふと優志がスマートフォンから視線をあげて,ブライスを見た。ブライスが微笑みを返すと,優志は唇をほんのわずかに震わせて,落ち着かなく視線を泳がせた。
―大丈夫…ではない…か…
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