序章

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 岩戸雅(いわと みやび)は妖怪を退治する高校生の「霧散師(むさんし)」だ。  築数百年という屋敷に住み、隣家は歴史のある御子神神社。その神社の主・浩司も、その娘の同級生である司(つかさ)も雅のよき理解者であり、妖怪退治のパートナーでもある。  雅と司が学校から連れ立って帰宅すると、神社の前に一人の男が佇んでいる。 「あれ? 雲さんじゃないか? どうしたんですか?」  雅は男に話しかけた。男は「雲(くも)」といい、霊場「国東院」の僧だ。雅とは古くから見知っている。司も一度、国東院で会っていた。 「雅さんをお待ちしていたのですよ」  雲は穏やかな表情で答えた。 「珍しいね。まあ、立ち話もなんだし……。司の家に居てください。すぐに僕も行きますから」  雅は一旦、家に入り荷を置くとすぐに司の家、御子神神社に行く。  神社の敷地内に御子神家の居住する家も建っている。社の裏手に建ち、岩戸家とは渡り廊下でつながっている。お互いに勝手知ったる家同士だ。  居間の戸を開けると、司の父・浩司と雲は談笑していた。 「しかし、久しぶりですな。私が最後に伺ったのは十年は昔になりますか」 「ええ。たまにはお顔をお見せください。光明様もお待ちしておりますよ」 「そうですね。娘もお世話になったことですし、来年にでもお伺いいたします」  雅は会話を邪魔せぬように、そっと部屋に入り、司の横に腰を下ろした。会話が途切れるのを待って雅は雲に問いかけた。 「雲さんも下界に来ることがあるんだね」 「ええ。実は三十年ぶりです」  司は驚いた。どう見ても雲は二十代前半にしか見えない。三十年ぶりといえば、すでに三十は超えているということだ。 「それで? 僕に何か用なの?」  雲は「そうでした」と頷く。 「実は主(あるじ)から言い使って参りました。雅さん、鈴をお見せください」  鈴とは雅が妖(あやかし)を霧散する時に使用する鈴のことだ。雅は短い十センチほどの棒に取り付けて使っている。片時も離さず身に付けている。  雅はすっと鈴を雲に手渡した。雲は手に乗せてまじまじと見つめた。 「ああ。やはり主の言う通りです。この鈴、長くは持ちませぬな」 「えっ!?」 「ごらんなさい。小さな亀裂が入っていますよ」  雅は再び鈴を手にして見てみる。確かに一ミリにも満たない傷があった。
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