さようならの始まり

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「寂しいね」 全てが終わった教室で。 彼女は黒板に描かれたチョークの跡を指でなぞった。 涙で滲んだようにぼやける文字。 「そうだな、あっという間だった」 「本当。楽しかったなー」 明日からはもう此処に来ることはない。 沢山の思い出を詰めて、今度はそれぞれの道を自分で作らなきゃならない。 「ねぇ、私、県外の大学行くんだ」 「知ってる」 「偶に帰ってくるから、だから・・」 左手に持たれた筒を握りしめたまま彼女はゆっくりと振り向いた。 泣かないつもりだったのにと言わんばかりに、目に涙を溜めて。 「その時は、また遊んでくれる?」 「当たり前だろ」 本当はもっと違う事を言いたかった。 最後じゃないと思うと最もらしい事しか言えなかった。 そして、泣いている彼女とは対照的に思いっきり笑って見せる。 その笑顔に、彼女もまた微笑んで ありがとう と言った。
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