第一章 彼岸の花

2/29
前へ
/230ページ
次へ
 空を見上げると、まだ星が瞬いていた。けれど、空の端が藍色に明けて来る。 光りに負けた星が、消えてゆく。 もうすぐ夜明けがやってくる。  倉庫から作業場へ、小麦粉やら砂糖やらを運び込み、 次の仕込みに入ってゆく。 ここは、作業場が狭いので、多くの材料は持ち込めない。  早朝の【森のくま】、 森のくまは人気のパン屋であった。 「一弘君、ライ麦粉も運んでおいてね」  森のくま店長、 善家 芽実(ぜんけ めぐみ)が俺に声を掛ける。  俺は薬師神 一弘(やくしじん かずひろ)高校二年生。 産まれて間もなく、両親が事故死し、 母の双子の兄、善家 安廣(ぜんけ やすひろ)が育ててくれた。 芽実は、安廣の妻であった。
/230ページ

最初のコメントを投稿しよう!

171人が本棚に入れています
本棚に追加