第一章 彼岸の花

7/29
前へ
/230ページ
次へ
「一弘君、乗り遅れる! ここは、いいから走って!」 「はい!」  ここまで、ぎりぎりでなくてもいいと、芽実にはいつも言われているが、 気が付くと時間を過ぎているのだ。  駅の改札を走り抜け、そのまま電車に乗り込む。 空いている席を見つけると、爆睡するのが俺の日課であった。  二駅ほど過ぎると、 同じ学校の檮山 琥王(ゆすやま こおう)が電車に乗ってくる。  俺は、この琥王と出会うまで、友人と呼べる者はいなかった。 「おはよう、薬師神。今日も、爆睡ね」  琥王は、俺が爆睡していても、全く気にせずに話しかけていた。  俺には、人に言えない事情がある。
/230ページ

最初のコメントを投稿しよう!

171人が本棚に入れています
本棚に追加