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儀式の痕跡があちこちに残る茶色のホールに元剣士たちが集まっていた。
「我々の目指しているものは明らかだ。そのためでなければここにはいない」
片手は目の前の炎に歯を剥いた。
「衛兵地区へ、でしょ?」
炎はつまらなさそうに言った。
「そこに行くことが目的ではない。勝利か、死か。それだけが我らの目的だ」
「それは聞いた」
「だが、分かるはずはない。貴様には」
片手は炎から目を逸らさなかった。
炎も負けてはいなかった。
「分かってる」
「何がだ。貴様に何が分かる?」
「もういいよ、その話は。どっちにしたってさ、早いとこ向こうに行きたいのは行きたいんだよね。そのためにできること、色々お願いしてるよね」
「貴様のためではない。我々のためだ」
「ああ、はいはい。でさ、そのためなら何でもすんだよね」
炎はうんざりした調子で続けた。
「もちろんだ」
片手は不敵な笑みを浮かべた。
「うんうん、それだけ聞けたらそれでいいよ。お願いしたいことはもう分かってると思うし」
「分かる必要はない。そんなことより早く堀を埋めろ」
「それは赤い堀がやってくれてるから」
「遅い」
「分かってるよ。手伝ってもらったあれ、もうすぐ動くから。あれでまたグンと進むんじゃない」
「貴様はいつも自分でやらない」
「なんてこと言うんだよ。ボクはもっと大きな目的のためにちゃんとやってるよ、ちゃんと」
「大きな目的?」
片手が鼻で笑った。
「そうだよ。ボクはもう待たない。僕が実現する」
炎の表情は硬かった。
「貴様の目的など知らん」
片手が吐き捨てるように言った。
「アンタの頭じゃ分かんないよ」
炎はそう言って目を逸らした。
「どっちにせよさ、もうそろそろってこと。それだけは分かっといて」
炎が言った。
片手は馬鹿にしたように鼻を鳴らした。
周りの元剣士たちも下卑た笑いを浮かべた。
炎は両手を広げ肩をすくめた。
ここにいる男の誰一人、炎は信用していなかった。
おくびにも出さなかった。
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