第一章ー春、自称“犬”ー

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  「拾おうかな」 いや、決して可愛いから拾って色々躾てふへへへという訳ではない、断じて、ない。のだが何だか眼が寂しそうで、田舎から都会に引っ越してきて二年。高校も二年生になった春だというのに未だにこの空気とクラスに馴染めない自身と重なってより一層、段ボールに自ら進んで入り丸みを帯びた可愛らしい文字でアホな事を書いてアホな発言ばかりする自称“犬”が悲しそうに僕の瞳には映って気がつくとそんな事を口にしていた。 「変な人ね」 「ふふん、君には言われたくないかな。お名前は?」 「吾輩は犬である、名前はまだにゃい」 「よし、犬なのか猫なのかキャラ立てをハッキリしていく方針で。名前はまあ、僕が考えるよ、ないなら仕方ないしね」 腰を屈めて目線を合わせる。近くによればよっぽど可愛い、日本人と特定せずとも世界でも珍しい白髪に水色の瞳。長い睫毛がこうするとよく見える。 「白い髪、綺麗だね」 「そう?私は黒い緋色(ひいろ)の髪も好きよ」 「え、今、なんて?」 聞き返すと油の差し忘れにより酷く風化した蝶番みたいな音をたてて顔を背けた。今、この子は僕の名前を呼んだのだ。 僕の名前は黒井緋色(くろい ひいろ)という。 名乗った覚えもこんなに鮮烈な印象を容姿、言動で与える子に以前出会って忘れる筈もない。なのにこの子は今、僕の名前を呼んだ、緋色って、ハッキリと。 「ねえ、君は何者なの?」 堪らずに早口でまくし立てるように問う。 頭を振り、白髪が動きに合わせて揺れふわりふわりと甘くて癖になりそうな香りが鼻腔をくすぐる。 「いぬもの、ね。きっと」 「なんだそれ。上手く言った、みたいなドヤ顔やめなさい」 不意で雑で斜め上を行くボケに笑いを誘われた。本人は満足気にたわわな胸を反らしてこれでもかと胸を張っている、胸を張るに胸部を反らすなんて意味合いがないのは説明するまでもないが愛らしいのでよしとしよう。
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