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翌朝、目が覚めた。やけに体が重たく、手足が動かない。寝ぼけた瞳を擦り、現実を確認するとベッドから落下した自称犬が覆い被さる形で上におり、器用に手足を自らのそれで絡めてとっていた。まるでもう離さないと言わんばかりに。
寝ぼけが取れていくにつれ、困ったことが起こり出す。まず、鼻腔が擽られる、彼女の女の子らしい少し甘い、それでいてしつこくない不思議な香りに。女の子って香水をつけてなくても良い匂いがする、そんなのは迷信だと理解していたけれど彼女にそれほどの身嗜み、というか。お洒落アイテムを使いこなす知能、といっては失礼なので知識と置き換えそれはないと思われ、男の理想を地で行くのだと確信した。
次に一番厄介な問題。柔らかいのだ。
全身をこちらへ預ける警戒どころか防御のぼの字も知らない無防備さが理性を崩壊させようと攻め立ててくる。どこが、とは明言しないが暴力的なまでに柔らかい二つのお山が更に錯乱を促進し、身動ぎをされようものなら声にならない悲鳴をあげるので精一杯。
「ちょ、ちょっと。起きて」
身を揺するのうにもこちらは身動きができない。声をかけるのが関の山だがそんな程度で起きる神経の持ち主ならベッドから落ちた時点で目覚めるはず。というか、僕も上から女の子とはいえ、それなりの重さのある彼女が落ちてきて目覚めなかったものだ。
「おーきーてぇー!」
「あと……ごふん……」
「だめ、起きて。早く、はりあーぷ」
「あと……きぶん……」
待て、なんだこのやり取り。
どこかで聞き覚えがあるような。詳しくは廃墟、学生塾跡、映画版で想像の五十倍くらい綺麗に描かれてておい、どこが廃墟だと誰しも突っ込んだあの場面。眠りこける金髪幼女吸血鬼カワイイヤッターちゃんと主人公の彼、みたいなやり取り。その先が分かりつつも、同じ台詞を選ぶ。
「どれだけ寝る気だよ」
「……よんじゅうろくおくねんくらい」
「地球がもう一個できちゃうよぉ!」
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