第一章ー春、自称“犬”ー

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「緋色」 「なに?」 「カスタード、二つ追加」 「貴女の会話料はなかなかにお高いですね、話を合わせただけで二百円ですか」 「緋色が実はおっぱいが大好きでいつも私の胸をマジマジとみてくるのーって言っても平気ならどうぞ」 「いつも淡白なのにやたらと饒舌だな!いいよ、分かったよ、頼んできますとも」 ありがとお礼を言われる、ソフトに脅しておきながら礼を述べるのかと思いつつこれも彼女らしさかと溜め息を吐いて次からは一日に食べれるたい焼きの量を規制するのを心に決めた。あと外出するときは神楽屋の近くには行かない。財布が極寒になってしまう、まあ、一〇匹食べても千円だと考えればかなり安いのだけれど。 「すみません、たい焼きのカスタード二つ追加でお願いします」 「はいよ」 厨房から低く渋いダンディーな大人ボイスが響く。あの方は神楽屋三代目、神楽雄一(かぐら ゆういち)さん。三代目なんだってことはぼんやりと認識していたけれどあの人が神楽さんのお父さんになる訳で。女将さんも美人さんだし神楽さんの容姿が良いのも納得だ。 「君」 「は、はい。なんでしょう」 席へ帰ろうと半分まで折り返したところで背後からダンディーボイスに呼び止められ振り向く。無表情も無表情、とても、なんというか、厳つい顔立ちだ。 「いつもたい焼き買ってくれてありがとう。ポイントカード、最近作ったんだがどうだろう?」 「あ、そうなんですか。是非、貰いたいです」 「そうか。なら今朝の分も合わせておくよ、毎回たい焼きだが家は自信作ばかりだ。たまには他も食ってくれると嬉しいよ」 「は、はい。あそこにいる娘が、えっと、従兄弟なんですけどたい焼きが好きでして。ぼ、僕はお洒落なの以外は食べれるので次からはなにか他の物も試してみます」 けして高圧的ではないが畏怖してしまう。その体の大きさと格好いいその声に。
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