第一章ー春、自称“犬”ー

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  僕は、春に真っ白な犬を拾った。 学校の帰り道、いつもは通らない路地裏の近道を使用したとき、ばったりと出会した。 人気のない路地裏という場所、段ボールに入れられていたところまでは鉄板だった。白い犬、というのも珍しいのではなかろうか、とか。そんなことではなくって圧倒的に犬ではない、段ボールに入っていてはおかしい異物を見て僕の視線、脳は固まってしまった。 まず、人間だった。 段ボールに入っていたのは人間だった。いやいや、人間なんだけども頭部のてっぺんに犬耳が鎮座し腰元からはゆらゆらとふっさふっさの埃を絡めてはなさなーいお掃除道具みたいな尻尾が生えていた。 それ以外は普通に人間だった。 犬と呼んでは語弊を招くその子を犬と呼ぶのは後々分かる話で現段階では首から下げられたプラカードによって犬だと判断した。 可哀想な子なの、拾って。 私は犬よ、扱いもペットで構わない。 と、日本語で書かれていたから犬と判断した。脳は人間だといっているがもうこの際、そんなのは置いておく。 「にゃー」 「そこはわんだよね!?」 ぷるりとした健康的で赤い唇が動いてわんと鳴いた。平淡で感情があまり含まれない声音、それでも何処か懐かしくて聞き覚えがあるような錯覚を起こした。 「そこのおにぃさん、拾っていかない?可愛いわ、わたし。胸も大きい、くびれもばっちり、ヒップもボリューミーで愛玩ようにぴったり。躾ればなんでもする、甘やかされのも大好き。あと胸が大きいの」 「なぜ二回いった、なぜ二回いった」 「大切なことだからよ、きりっ」 ふはぁ、深くて淀んだ空気を吐く。 路地裏の閑散とした空気は表通りより湿っていて半開きで僕を見つめるドヤっも誇らしげな瞳からやっと目を逸らした。
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