第一章ー春、自称“犬”ー

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  「連れて帰ってきてしまった……」 僕は田舎から都会に出てきて都会の高校に通っている。つまるところ、一人暮らしなのだ、間取りは1kで部屋は一つ。犬と自称してやまない彼女をさも捨て猫を拾って飼育するかのような感覚で連れ帰ってしまった。 室内はベッド、テレビ、ローテーブルに押し入れを改造した手製のクローゼット、各種本類を仕舞う棚などで混雑しており実質、人が暮らせるスペースは限られてくる。この空間で毎日、女の子と二人で生活、うん、無理な気しかしない。 「うち、ペットおっけーだったかな……」 無駄な心配をしつつ我が家へ拾い犬をあげる。案外、繊細なのか僕の傍を離れない。距離感が近い気もする、彼女が身を揺する度に肩が触れ合うくらいに。 「とりあえずお座りよ」 「にゃー」 「だからそこはわんでしょって!」 終始ボケ倒す彼女だがやはり犬より人間よりなのだろう、言葉の意味は確りと理解してくているようだ。まず、袖を引いて僕を座らせて膝の上にちょこん、はふーと至福の一時にありついたみたいな吐息をもらす。 ちゃんと意味を理解してくれてなかったみたいです、期待した僕が悪かったのですか、でしょうね、でしょうとも。 人よりでも知能は犬なみだと脳内メモリにメモを残しておく。一から人としての振舞いと常識を躾る必要があるとも加筆した。 「あのー、わんこさんわんこさん」 「なあに、緋色」 ご機嫌指数を司る尻尾をぶんぶんと振る。 鼻の頭にもふもふ尻尾がふさふさなってこしょばいが地味に心地が良い。 「さも当然みたいに人の膝に座らないでもらえますか、動けないでしょ。用事しないといけないんだよ、家事とか」 「緋色」 「なんでしょう」 くるりと綺麗な顔がこちらを向く。 そしてとびっきりのドヤ顔で言い放つ。 「家事をしないといけないように私は緋色に構ってもらえないと寂しくて死んじゃうの」 「あんたはウサギか」 眉根にシワを寄せて指で摘まみ指圧する。 なるほど、これは幸せイベントだと考えて甘やかしてあげるべき、なのかな。寧ろ甘やかさないと退かないまであった。
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