2章 僕の異常な日常

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 このクリスタルロードと百番町大通りをメインにするアーケードから客が消え始めたのは五年前からだった。    それでもここは普通の商店街と違って駐車場があると油断していたらしい。実際、ほへと横丁の両脇にだってあった。    それでも客足は減って行った。だいたい駐車場くらい駅前にだってあるし利便性で負けてるのは明らかだ。    ビルの中に店を詰め込んである方が買い物がしやすい。    それに郊外にだって次々と大型ショッピングモールが建てられている。    新しい物好きで歩くのが苦手なS市民。そんなヤツらが、駅から離れてて、目新しさもないアーケードに来ないのも当然だった。      そして決定的だったのが1年半前の初売り。    駅前対アーケードの売上げ勝負。これにアーケード側は完全に負けてしまった。    普通、初売りは大した稼ぎにならないらしいけど、この年は普段の赤字をここで解消しようというお店も多かった。    S市民はこのイベントを特別視している。そこに賭けたらしい。    この地域で初売りは1月2日からやるものだけど1日の夜、僕の家の果物屋で家族4人が初売りの準備を終えた夜だった。    アーケードでは、ほとんど見られなかった行列が駅前の、どのビルにもすでに出来ているニュース映像。    特に東口の家電量販店はお祭り騒ぎだった。      それを見た父はアーケードまで飛び出して行った。そして駅前とのあまりの差に言葉も出ないようだった。なんせ毎年、大勢来る買い物客が一人もいなかったのだから。父もこの初売りに店の運命をたくさざるを得なかった。    カズ美は、まだ始まってないんだからと慰めたが結果は店が潰れるくらいの赤字だった。    その日から店のシャッターが開く事はなかった。      S市にとって初売りは戦争だ。闘争心とは無縁のS市が戦場になる日だった。    客達に日ごろの感謝を込めて大盤振る舞いをするなどと言っても結局は生活がかかってるのは僕にも分かった。    特にこの年は駅前にごっそり持って行かれた客足を取り戻さないと閉店が目に見えている所が大半だった。    戦争と言っても良い。    その戦争にアーケードは負けた。    いくつもの店が潰れた。
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