9人が本棚に入れています
本棚に追加
僕は小学生に戻っていた。
いや家族も同様だった。それについて違和感はなかった。
釣り糸を垂らしている父の国夫は今と違って髪がフサフサだし、母のみさが被っている帽子も飽きたからと売ってしまった物だ。
妹のカズ美のかけてるメガネだって僕が間違って割っていた。
僕の手にも釣り竿。糸の先にはエサのアオイソメ。小学生の時、僕はあれを素手でつかんで針に通していたのか。高校生になった今はあまりやりたくないな。
我が麻倉家の女性陣は釣りに来ても釣り竿に触らなかった。
母は釣り上げる予定のハゼをどう料理するか父と相談していたし、カズ美はマンガを読んでいた。その表紙には麦わら帽子の少年。釣り好きのその少年を主人公にしたマンガだ。
こんな所に釣りのマンガを持って来るのはカズ美なりに気を使ったのか何かの冗談なのか。よく分からないヤツだ。
僕はそんなカズ美の方を見て釣り竿を振る。
岸の方がハゼがいるという父のアドバイスを無視して力一杯に仕掛けを遠投した。かなり遠くに飛んだ。新記録だろう。
得意気にカズ美を見てみたが、妹はマンガに視線を戻してしまった。やれやれ冷たいヤツだ。
そして父がハゼを釣り上げた。丸太みたいな太い腕で、あんな小魚を釣り上げる姿は今から思うとコントのワンシーンみたいだ。
と、携帯電話のアラーム音。曲はいわゆるアニソンでこの設定にしたのは一ヵ月くらい前だ。
そして時刻は朝の7時に設定していた。
目が覚める。夢オチだ。
まあ小学生に戻るなんて展開なら、そんなオチがついてしまうだろう。有り得ない事だ。
それにもっと有り得ない事があった。
僕の家族は二度と仲良く釣りに行く事はないのだから。
最初のコメントを投稿しよう!