0人が本棚に入れています
本棚に追加
泣き虫
幼馴染の舞子は、昔から物凄い泣き虫だ。
痛い・苦しい・悲しい場合はむろん、ちょっと驚いたとかでも泣く。そのたび、近くにいる俺が、何をしたのかと問いつめられる。
そんな奴だから、面倒で一緒にいたくないのに、やたらと俺の側に寄って来る。でも、無視したり突き離したりすると泣くから、それで周りに責められて、結局一緒にいることになった。
そんなことを十年近く続けてきたけれど、そろそろ離れる時期かもしれない。
志望する高校は別々で、幼馴染といってもそこまで近所な訳ではなく、幼稚園から一緒というだけだから、学校が変わればもうそんなに頻繁に会うこともないだろう。
やっとあの泣き虫と縁が切れる。これで舞子が泣いていても、俺がとやかく責められることはなくなる。
そんなことを思ってたある日、クラスの用事で二人で居残ることになった。
幼馴染の気安さで、用事を片づけながら取り留めのないことを語り合う。その時に志望校の話が出た。
「そっか。高校からは、翔平くんとは学校別々になるんだね」
あ、やばい…と思った。
長い付き合いだから、コイツの声がこういう感じになったら泣く。それが俺には判るんだ。
周りには誰もいないけれど、もしも廊下を誰かが通りかかった時に、幼馴染とはいえ、教室で女の子を泣かせたなんて場面を見られたら、いったい何をしたのかと責められてしまう。だから頼む、泣くな。
そんな俺の心の声が聞こえたかのように、舞子は涙をこぼさなかった。
「長い付き合いだったけど、離れ離れだねー。残念」
さっきまでとは口調を変えてそうつぶやく。その顔はむしろにこやかだ。
でも、俺は見逃さなかった。舞子の眼に涙がいっぱい溜まっていることを。
あの泣き虫が、一生懸命涙を堪えてる。多分、俺のために。
それを見た瞬間、俺の口からとある言葉が飛び出した。
最初のコメントを投稿しよう!