泣き虫

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泣き虫

 幼馴染の舞子は、昔から物凄い泣き虫だ。  痛い・苦しい・悲しい場合はむろん、ちょっと驚いたとかでも泣く。そのたび、近くにいる俺が、何をしたのかと問いつめられる。  そんな奴だから、面倒で一緒にいたくないのに、やたらと俺の側に寄って来る。でも、無視したり突き離したりすると泣くから、それで周りに責められて、結局一緒にいることになった。  そんなことを十年近く続けてきたけれど、そろそろ離れる時期かもしれない。  志望する高校は別々で、幼馴染といってもそこまで近所な訳ではなく、幼稚園から一緒というだけだから、学校が変わればもうそんなに頻繁に会うこともないだろう。  やっとあの泣き虫と縁が切れる。これで舞子が泣いていても、俺がとやかく責められることはなくなる。  そんなことを思ってたある日、クラスの用事で二人で居残ることになった。  幼馴染の気安さで、用事を片づけながら取り留めのないことを語り合う。その時に志望校の話が出た。 「そっか。高校からは、翔平くんとは学校別々になるんだね」  あ、やばい…と思った。  長い付き合いだから、コイツの声がこういう感じになったら泣く。それが俺には判るんだ。  周りには誰もいないけれど、もしも廊下を誰かが通りかかった時に、幼馴染とはいえ、教室で女の子を泣かせたなんて場面を見られたら、いったい何をしたのかと責められてしまう。だから頼む、泣くな。  そんな俺の心の声が聞こえたかのように、舞子は涙をこぼさなかった。 「長い付き合いだったけど、離れ離れだねー。残念」  さっきまでとは口調を変えてそうつぶやく。その顔はむしろにこやかだ。  でも、俺は見逃さなかった。舞子の眼に涙がいっぱい溜まっていることを。  あの泣き虫が、一生懸命涙を堪えてる。多分、俺のために。  それを見た瞬間、俺の口からとある言葉が飛び出した。
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