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「ちょっと! 何、勝手に」
「『ごめーん。彼氏が迎えに来てくれたから、今日はやっぱりパスするね』」
及川は打ち込んだメッセージを読み上げると、私の了承を待たずにさっさと送ってしまった。
「私に彼氏がいないことなんて、みんな知ってるし」
「それ違います。彼氏がいることを知らないのが先輩だけなんです」
及川の言葉に首をひねった。
「訳わかんない」
「誰がどう見たって、俺が先輩の彼氏でしょ? 毎日、昼休みには2号館から飛んで来て、部活がない日は迎えに来て家まで送って行くんだから」
「いやいや、それを彼氏とは言わないでしょ。彼氏だったら週末デートするし、手を繋いで歩くでしょ?」
「先輩が受験生だから週末デートは遠慮してました。手を繋ぐのも、先輩、照れ屋だから。でも、お許しが出たから早速。もう我慢の限界だし」
ガシッと手を掴まれて、グイグイ引っ張られ教室から連れ出される。
黒板に大きく書かれた『3-1 祝★卒業』の文字。
『お前ら全員大好きだ!』『最高の青春をありがとう』『サヨナラは言わない』
そんな言葉で黒板を埋め尽くしていく男子たちの後ろ姿を思い出す。
もうこの教室ともお別れ。
最後に感謝の気持ちを込めて一礼して去って行くつもりだったのに……。
「もう何なの? 卒業の感傷にも浸れない」
「焼肉奢りますけど?」
「行く」
END
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