特訓

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「それで…私はこの後どうなるのでしょうか?」 キンさんが圧力を掛けたせいで気まづくなった中、シズクさんが沈黙を破る。 そうか…そうだよな。 俺は一郎の後釜に座れたからいい物の、シズクさんは完璧にアウェーだ。 つまり、俺のようにすんなりと馴染む事は出来ないだろう。 そして、同じ地球人を放って置く事は出来ない。 「故郷へは帰れないのですか?」 それに言葉を返したのは、エレオール先生。 キンさんを気にしつつ、ビクビクと声を絞り出す。 「多分無理でしょう…。新宿二丁目から参りましたもので。」 新宿二丁目…? テレビで見た事ある。 確か、オカマバーとかが沢山あって、ゲイが集うと言う……。 ってか、本格的な場所にいたんだなぁ… 東京とは無縁の田舎に住んでたから、あまり想像がつかないや。 「シンジュクニチョウメ…ですか?聞いたこと無いですね。」 まぁ、そりゃそうでしょうよ! と思いながら首を捻るエレオール先生に、脳内で突っ込みを入れる。 「やはり、国の名すら届かぬ地に召喚されてしまいましたか…… 。」 キュッと握った拳を胸に当てて寂しそうな顔をしながらそう言うシズクさん。 この世界の魔法やら何やらを受け入れて、想像だろうが上手く設定を合わせたもんだ。 そして、演技も女優レベルでとても嘘をついている様には見えない。 これが…夜の世界を渡り歩いた人の実力か! 「それで不躾なのですが…もしよろしければ、暫くこちらに置いては頂けませんか?何分、身一つでこちらに来てしまったものですので…。」 着物の襟を、きゅっと抱き寄せる。 これはヤバイな。 守ってあげなきゃ!と言う使命感が湧き上がる。 男なのに! 「ええ、それは勿論。こちらの不手際で起きた不祥事ですので、責任は取らせて頂くつもりです…学園長が不在の今、代わってお詫び申し上げます。」 エレオール先生が、スッと頭を下げる。 キツそうと思ったけど、やっぱり大人なだけあってこういう所しっかりしてるな…。
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