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気心知れた麻生部長が相手とはいえ、まるで告白のような決意表明をしなければならないなんて、見合いはやはり恥ずかしい。
事務的な会話に徹する間抑えこんでいた照れを冷ましながら、夜空に散っていく白い息を眺める。
仕事でここまで判断材料の少ない即断をしたことはないのに、まさかこんな形で自分が結婚を決めるとは思ってもみなかった。
でも、後悔はない。
ただ一点の罪悪感を除いては。
別れ際の悲しげに揺れる目をもう一度思い浮かべた。
きっと、善良な彼女は復讐を思い止まらせて欲しかったはずだ。
迷い続けて決められず、自分の進退を僕の返事に託しているのだろう。
おそらく、僕が断ると読んで。
「ごめんね」
止めてあげられなくて。
専務失脚の可能性を知っていながら彼女を手放さない僕は狡い。
でも、僕は彼女が生きる小じんまりとしたいじらしい世界ごと、自分の手で彼女を守りたくなってしまった。
真相を彼女に告げなかったのは、これ以上汚い事実を知って欲しくなかったからだ。
でもそれは、彼女に僕から逃げる道を告げなかったことにもなる。
いつか彼女が僕を求めてくれたら、この罪悪感は消えるだろうか。
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