無謀な婚約

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見合いは都内の有名な老舗ホテルが指定された。 そこが専務の御用達らしい。 確か桐谷たちの式は新宿のハイアットあたりが希望だと聞いている。 つくづく、父と娘と婿まで揃ってブランドを誇示するのが好きな一族だ。 待ち合わせ場所はロビーラウンジだった。 僕と麻生部長が待つラウンジに、別の場所でおちあった部長夫人と彼女が合流する、という手順らしい。 待つ間、麻生部長が言いにくそうに切り出した。 「黒木君は今日の目的以外に専務から何か聞いているのかな?」 「いいえ」 短く返事してから、窓の外の庭園に視線を向けた。 この件では部長と事務連絡しかしていないから、部長は僕の真意を計りかね、取引が専務の虚言であることを忠告したいのだろう。 「専務には黙って応じましたが、人事権の本当の所在は知っています」 「そうか。ならいいけどな……」 部長は言葉を濁した後、ふと怪訝そうにこちらに顔を向けた。 「じゃあ、君の目的は?」 「見合いですよ。当然ながら」 部長の顔を見てにっこりと笑った。 「純粋にね」
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