寝室での出来事

3/26
前へ
/26ページ
次へ
「あの……」 しばらくすると、彼女がバッグを抱き締めたまま意を決したようにこちらを向いた。 蚊の鳴くような声を拾いあげようと、思わず耳を傾ける。 「車、素敵ですね」 そう言った瞬間、彼女はバッグに顔を埋めるように身を縮めた。 何やら後悔しているらしい。 「ああ…友人がディーラーなので、全て任せてるんです」 実は車にあまり興味はないけれど、せっかく彼女がひねり出した話題なので引っ張る。 「だから彼にとって僕はいいカモってところですね」 彼女は車の中をぐるりと見回した後、疑り深い目を僕の横顔に向けてきた。 僕のことを嘘吐きの成金野郎とでも思っているに違いない。 誰かのせいで、とにかく僕は悪人スタートなのだ。 「あまりこだわりはないですよ。どれも似たようなものでしょうから、頑丈で故障がなければ」 言い訳がましく付け足してから、ふと今後のことを考えた。 彼女にはこの車は似合わない。 帰国後は違うタイプの車にするか……という問題より、どう見ても鈍臭そうな彼女は、果たして運転できるのだろうか?
/26ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3215人が本棚に入れています
本棚に追加