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彼女の声の温もりの余韻に浸りながら、ネクタイを締める。
「おやすみ……か」
早くベッドの中で言いたいなと、仕事前にはそぐわないことを考えた。
毎晩、あの優しい声でおやすみを言ってもらえたら熟睡できそうだ。
……いや。たぶん寝るどころじゃなくなるか。
迫る僕と嫌がる彼女という、なかなか刺激的な絵図が浮かぶ。
「朝から何なんだ」
いよいよ仕事前にそぐわなくなってきた頭を振り、僕は予定通り帰国するための大一番に出陣した。
でも後から振り返れば、この時の彼女は小さなサインを何度も出していたと思う。
なぜ僕は気づこうとしなかったのだろう?
多忙な仕事と彼女を両立させることにかまけて、僕は彼女に癒してもらうばかりだった。
桐谷への嫉妬を消化しようと自分のことばかりで、僕は彼女を全く守れていなかった。
そのことは帰国後の僕たちに温度差を生じさせることになった。
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