彼女の拒絶

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次の木曜、僕はスケジュール通り帰国した。 契約にこぎ着けたのが日程ぎりぎりだったため、具体的な協議は宿題として残したままだったけれど、成果としては上々だ。 休む間もなく土曜の早朝も出勤して現地と話を詰め、昼過ぎから夕方までは一度会社を抜けることを麻生部長に告げる。 休日奉仕だし、アメリカとの時差で昼間は協議できないから問題ない。 「少し出てきます。夕方戻って話を詰めておきますから、部長はどうぞお帰り下さい」 「えっ、戻って来るのか?そんなに無理しなくても明日でいいのに。疲れてるだろうし、その……色々あれだろう」 “色々あれ”って何だ。 麻生部長は僕が彼女と会おうとしていると思ったらしい。 いやいや、今日は猫なのだ。 その誤解は放置し、部長にはそのまま帰ると告げて会社を出る。 でも僕は夕方戻るつもりでいた。 明日は明日で、彼女に会う時間を確保したい。 誰も知らない涙ぐましい時間と体力のやりくりを自分で労いつつ自宅に戻ると、帰ったきりトランクを開きっぱなしのリビングは見て見ぬふりで、車で郊外へと向かった。
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