彼女の拒絶

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午後の商談は互いの出方の探りあいで、あまり進展はなかった。 でもこういう神経戦は珍しいことではない。 日本の商習慣はある程度性善説に基づいているけれど、一歩国境を越えると、そのままの意識では痛い目を見る。 「んあー疲れた……」 初日のすべての行程を終え、ホテルでシャワーを浴びるとベッドに倒れこんだ。 身体を横たえるのは何十時間ぶりだろう? ようやく辿り着いたベッドはまるで天国だったけれど、僕は睡魔に引きずりこまれそうになる意識に鞭打ち、起き上がった。 僕には急ぎの調べ物があるのだ。 仕事ではなく、プライベートの。 ビールは我慢してルームサービスでコーヒーを頼み、パソコンを開く。 昼間、水野に教えられて検索してみると、猫の保護施設のヒット件数は意外に多かった。 けれどそれは玉石混淆で、実際にコンタクトを取ってみなければ善意の団体なのか分からない。 海外取引に毒されたのか、僕は猜疑心が強いようだ。 彼女にはコロッと人生を開放したのに。
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