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彼女を送り届けたあと自宅に戻った僕は、現実から目を背けるようにしばらく仕事に没頭した。
こういう時はかえって捗るものなのか、かなりの量を一気に片付けてしまい、凝った首を揉みながらパソコンの電源を落とす。
シャワーを浴びて寝ようと部屋を出ていきかけて、ふと僕はもう一度腰掛け、デスクの引き出しを開けた。
そこにあるのは桐谷への招待状。
再出発の日は、出来る限り曇りなく迎えさせてやりたい。
そんな思いで予定していた復讐を放棄すべきか迷い、出せずにいたはずだった。
でも本当の理由は、平凡な一人の男のささやかな願いだったのかもしれない。
ただ僕一人だけを見ていて欲しい、と。
「……ごめん」
貫徹できなくて。
招待状を取り上げ、目を閉じて呟いた。
僕が本当に強い男だったら、君の復讐を遂げさせてやっただろうに。
僕は横槍で好きになってしまった。
彼女が掃除で綺麗に空っぽにしてくれたゴミ箱が、スコンと空虚な音を響かせた。
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