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とっぷりと日が暮れると、僕も配膳を手伝い、夕飯をかこんだ。
「おいしかった。ごちそうさま」
「残りは三日以内に食べきって下さいね。冷蔵庫に入れておきますから」
「明日すぐ食べるよ」
食事中、彼女は僕の出張の苦労話にずっと笑ってばかりで、こうして緩やかな午後を過ごす間に、僕はあの遭遇も僕たちが背負う秘密も事情も、取るに足らないことのように思えていた。
もう最悪の懸案場面は越えたのだと、このまま何事もなく式を迎えられるのだと。
そうして目を逸らしてきたツケは確実に進行して、暴発を待っていたのに。
その予兆はこのすぐ後に起こった。
「ああ……もうこんな時間か」
夕飯後にくつろぐソファから時計を見上げると、もう十時。
「そろそろ帰さないとね」
彼女を引き寄せると、名残惜しいなんて言葉では足りないぐらい心と身体が渇望を訴える。
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