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話を聞き終えると、スタッフは少し迷っているようだった。
「ご事情はわかりました。でも、その方を同伴して来てもらえませんか?」
サプライズにならないけれど、妥協するか迷う。
「基本的にここの子たちはプレゼントにして頂きたくないんです。申し上げにくいですが、その方とお客様が、その……万が一うまくいかなかった場合、この子がどうなるのか保証がないですよね。不安定な状況に置きたくありません」
“うまくいかなかったら”
僕の潜在的な急所を鋭く突かれてたじろぐ。
でも、言っていることは納得できた。
「ここの営業時間は?」
「え?」
「僕、ここに通います。僕がこの猫を抱けるようになったら譲って頂けないでしょうか?僕が可愛がりますから」
帰り道、信号待ちの間にふと見下ろすと、ズボンが猫の毛だらけだった。
やれやれ。
一人で苦笑する。
彼女と出会ってから僕はどこに向かっているのやら。
見通しの良いまっすぐな一本道だった僕の人生は、まるで森の中の小道に突っ込んだみたいだ。
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