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これって、いつか彼女を見送る駅の雑踏で、彼女の人生から立ち去れない自分を自覚した瞬間の気持ちと同じじゃないか。
なぜあの猫とこれっきりに立ち去ることができないのか。
僕は、あの猫に彼女を重ねてしまった。
だからあの猫の傷や警戒心が愛しく思えて離れられないのだ。
彼女のせいで血迷っているのか、隠された性分が顕在化したのか、どうやら僕は棘の迷い道を進むのが気に入ってしまったらしい。
「……よし」
ハンドルを握り直し、気合いを入れ直す。
誕生日を過ぎてしまうようなら彼女に明かすしかないけれど、ダメ元でぎりぎりまで粘ろう。
しかし、この時の僕はあの猫に彼女を重ねて盛り上がるあまり、間抜けな思い込みをしていた。
猫に無縁だったため、僕は性別の見分け方などよく知らない。
奴が女の子ではなく「野郎」だったと知る衝撃の瞬間は、格好悪いことに、後日彼女の目の前で迎えてしまうことになる。
けれどその前に、そんなこととは比べようもない、足元を掬われるような事態が僕を待ち受けていた。
多忙さの中で彼女を喜ばせようと焦るあまり、目を逸らすべきではない部分で油断したことへの、当然の報いだったと思う。
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