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「僕が守ろうと思っていたのに」
西野円香との過去。
見合いの裏の取引。
たとえそれが実体のないものでも、僕のせいで余計に彼女の傷をえぐり苦しめてしまった。
「十分、守ってくれました」
なのに彼女はそう言って微笑んだ。
彼女は裏切られる恐怖を一人で乗り越え、身ごと投げ出し、その柔らかな強さで僕をそっと包んでくれていた。
守られているのは僕なのかもしれない。
リビングから差し込む夕暮れの日差しで茜に染まった廊下で、もどかしく見つめ合う。
彼女への気持ちを伝えきる言葉なんて存在しない。
「……ごめん」
キスしかけて顔を逸らし、呻いた。
彼女には先週、押し退けられたばかりだ。
我慢しすぎて、もう遠慮を捨ててもいいのかすらも判断できなくなっていた。
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