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会社を飛び出し、駅まで走る。
ただ彼女のアパートに向かうことで頭がいっぱいだった。
電車は珍しく空いていたけれど、とても座る気分ではない。
もっと早く走れないのだろうか。
普段は気にしたこともない、ゆっくりと慎重なドアの開閉にも焦りが込み上げて、自分が走り出したくなる。
苛々と手荒くネクタイを引きむしって緩めると、隣にいた女性に怪訝そうな横目で見られてしまった。
仕方なく辛抱して吊り広告を睨んでいると、携帯が着信を知らせた。
彼女なら良かったのに、画面に表示されたのはさきほどの数列。
僕が助け船を出さないと思い、西野円香がもう一度懇願してきたのだろう。
まだ寛容な応対をする余裕がなく、電車内でもあるので、電源を落とした。
否応なしに電車に揺られながら、怒りは自身に向いていく。
ほとほと自分が嫌になった。
リスクを避けるため人としての感情を切り捨ててきた過去の自分。
それを棚にあげて、西野円香に怒鳴るばかりの自分。
彼女を守るという意気込みばかりで、異変に気付けなかった自分。
挙げればきりがない。
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