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三階建の小さなアパートの廊下には誰の姿もなく、静まり返っていた。
彼女の部屋は二階。
いつも車の窓から灯りがつくのを待っていた部屋は、四つ並んだドアの奥から二番目だ。
気が急くあまり、階段口からわずか数歩でドアにたどり着いたかもしれない。
経年の細かい傷がついたクリーム色の質素なドアの横には、名前の表札の代わりに手書きの小さな猫の絵が入れてあった。
ここで間違いない。
強く押せば願いが叶うわけでもないのに、指に力を込めインターホンを押す。
応答を待ちきれず、二度、三度。
でも、荒い息を押し殺し耳を澄ませて待っていても何も聞こえず、人の気配も感じられない。
たまらずにドアを叩いた。
「僕だよ。黒木だ」
……応答なし。
思い余ってドアノブを引くと、ドアは呆気なく開いた。
嬉しさよりもヒヤリとする悪い予感が背筋を走るのを感じながら、中に飛び込んだ。
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