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玄関を開けると、廊下とも呼べない小さな通路の先に居室へ通じるドアが半開きになっていた。
「入るよ」
一声かけてから足を踏み入れる。
初めて入る、彼女の部屋。
一目で見渡せる小じんまりとした部屋は探すまでもなく、誰もいなかった。
開け放した窓から入ってくる春の風が、薄いカーテンを静かに揺らしていた。
部屋は綺麗に片付けられていて、隅には幾つもの段ボール箱が積んである。
続く小さなキッチンには、ガスコンロに赤いやかんと、傍らに紅茶のティーバッグを入れたカップが一つ。
やかんに触ってみても温もりはなく冷えている。
お茶を飲もうとして、そのまま彼女はどこへ消えてしまったのか。
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