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急いで携帯を取り出し、彼女にかけてみたけれど、やはり電源は切られたままだ。
桐谷が来た?
何があった?
今どこにいる?
整えられたベッドには唯一、彼女が座っていた跡のような丸いシワが残されていた。
「……里英」
床にしゃがみ、そこに手を触れると、愛しさと苦しさで喉が詰まった。
呼んでみて気づく。
僕は、ずっと名前を呼びたかったのだ。
いつか彼女の心が完全に僕に向いてくれたら──そう思って待っていたのかもしれない。
なのに、僕のものになる前に、彼女はいなくなってしまった。
初めて呼んだ彼女の名前は、ところどころに画鋲の穴がある白い壁に吸い込まれ消えていった。
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