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僕は彼女のことをあまりにも知らなかった。
普段彼女がどこに行くのか、好きな場所はどこなのか、辛い時はどうするのか。
この空の下のどこかで彼女は泣いているのに、辿り着くことも探し当てることもできない。
こんなに自分をちっぽけだと思ったことはなかった。
電話が通じない。
ただそれだけで手足をもがれたように動けなくなってしまうなんて、ここまで自分が非力で、ここまで繋がりが儚いものだったとは思わなかった。
桐谷に裏切られ、婚約者には先約がいたなんて、彼女は何度同じ目に遭えばいいのだろう。
しかもこともあろうに、相手は同じ女だ。
過去の汚い瀝と因縁をぶら下げた僕なんて、彼女にふさわしくなかったのに。
僕でなければ、彼女は二度も傷つかずに済んだのに。
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