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朝日に射されて目を覚ますと、見たことのない部屋にいた。窓にはレースカーテンのみが掛かっていて、外が透けて見えた。
八階建てマンションの三階の景色にこれといって感慨はないが、出不精の俺が外を見るのは久し振りかもしれない。
自分の部屋は論文が日焼けしないように、黒板の内容が外から見えないようにと、完全に遮光している。
左右対称の部屋。同じマンションの一室とは思えない眩しさに目を細めた。
壁に沿って積み上げられた本と、紙の束。隅にある黒いケースは、形からしてヴァイオリンだろうか。
自分が今いるベッドは、シングルより少し大きいくらい。あいつが寝るのだから、大きくて当然だ。
「……」
――そうだ。ここはあいつの部屋だ。
自分が昨日したことを思い出し、恥ずかしさに悶えた。別に性行為が恥ずかしいような歳でもないが、人に触られることは不慣れだし、それに――。
眠りに落ちる直前に見た永礼の表情を思う。
――常に笑っている永礼の、真剣な表情。全てを見透すような、真っ直ぐな眼差し。
思い出して、身体が震える。熱をもつ。
「だめだ!」
こみ上げてくる熱を振り切ろうとして、布団を勢いよくめくる。下を穿いていなかったらまた恥ずかしい思いをするなと思ったが、そんな心配は杞憂に終わった。あの後、永礼が穿かせてくれたのだろう。そういえば嫌なベタつきもない。後処理も全部してくれたのか。多少の申し訳なさを覚える。
布団をめくると同時に、ひらり、と一枚の紙が舞った。拾い上げてみれば、永礼の健康診断の結果表だった。日付はかなり最近。
「感染症なし、か」
色んな女と関係をもっていたから、性病がないと知らせたかったのだろう。昨日も、俺の中で出すことはしなかった。中で出さなければ良いという問題でもないが。
――本当、どこまでいっても律儀なやつ。
もう仕事に行っただろう永礼の、無垢な笑顔を想って笑ってしまった。
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