1323人が本棚に入れています
本棚に追加
5.振動
***
綾瀬流生side
ぱちりと目を覚ました。時間は朝六時。
二日間の徹夜で眠気がピークだったのだろう、昨日の夕方にベッドに入り、泥のように眠っていた。眠気が解消した後は一昨日の夜から何も食べていないのを思い出し、空腹感に襲われて俺はキッチンへと移動する。我ながら欲望に忠実な奴だと思う。
日曜日だから、あいつはまだ起きていないだろう。フライパンを火にかけ、冷蔵庫から卵とベーコンを取り出す。
ふと立ち上る人の気配。
後ろから誰かに包み込まれて、その突然さに体が強ばる。だがこんなことをするのは一人しかいない。体の力を抜いて、大きく息を吐いた。
「…今日は、卵はいいのか?」
前は卵を焼くために、抱き締めるみたいなこんな紛らわしい姿勢を取っていた。
ふっと笑う気配と吐息。体にしっかりと腕が回される。二の腕を揉み、腰を撫でられる。
――あのときとは違う。
「…本当は、こうしたかったんだ」
甘い声で囁かれ、耳を舐められる。抱き締めて耳を舐めたかった?違うだろ。
「――っ!」
お互い大人なんだ。その先が欲しかったに決まってる。
首をひねって、すぐ後ろにある永礼の薄い唇に噛みついた。意外に柔らかい唇を上下別に吸う。舌で口内を探ると、永礼の方から舌を合わされた。舌先で何度か突ついた後、全体を絡める。
柔らかい檸檬色の髪に手を差し入れ引き寄せると、俺の背中をさすっていた腕の動きが止まり、強く腰を引き寄せた。
身長差は、あるにはあるが大きくはない。お互いの硬くなり始めたものが布越しに当たる。
「……」
頭の拘束を解き、視線を交わらせる。俺を見据える熱っぽい目と、そこに映る同じような目をした自分が酷く真剣で、思わず噴き出してしまった。
「笑わないでよ」
可笑しそうに言う永礼はそれこそ、いつも笑っている。子供っぽく口を尖らせてはいるが、やっぱり笑っている。
「ごめん。拗ねるなって」
コンロの火を止め、手を繋いでリビングに向かう。ソファに座れば、そのまま押し倒された。続きをしようか、と耳元で囁かれ、返事しようと開いた口から舌を入れられる。
口の中を撫でるような優しいキスから、情感を煽る深いキスへ。繋いでいた手が離れ、頬を撫で、首筋、肩、腹を何度もなぞるので、俺もなんとなく永礼の背に腕を回した。
今まで、俺から抱き締めたことはない。予想以上の硬さに驚いた。案外筋肉質なのかもしれない。
「なあ、脱いで?」
口づけの合間に囁く。
「僕が?」
永礼が目をしばたかせる。何度か身体を重ねてはいるが、いつも脱がされるのは俺ばかりで、俺は永礼の身体を直に見たことはない。
大学時代にサークルでキャンプに出かけたことがあったが、川に入るときでさえこいつは服を着たままだった。
「俺だけなんてフェアじゃないだろ」
体を晒さない主義なのかと思ったが、大した抵抗もなく永礼は着ていたシャツを脱ぎ捨てた。
最初のコメントを投稿しよう!