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0.回帰分析
「永礼、お前がほしい」
「最高の口説き文句だね」
永礼は俺にのしかかり、自然に両手首を拘束した。その顔には、いつもと変わらない微笑が浮かんでいる。当然俺はそれを同意だと思うわけで、本当は永礼が「したくない」と思っていることなんてわかるはずがなかった。
唇を塞がれる。はじめは優しく、擦り合わせるだけ。そして入ってきた舌は、闖入者のくせして我が物顔で俺の口内をなぞり暴れ回る。俺の舌にまとわりついてきて、表面のざらざらがはっきりとわかる程にこすり当ててくる。それがたまらなく気持ち良くて、キスをそんなに重要視していなかった俺を溺れさせていった。
じゅっと唾液を啜る永礼の膝が、少しずつ位置を変えて俺の脚を開いていく。中央への緩い刺激は、蕩けるようなキスとともに頭を溶かしていくんだ。
脱ぎたい。直接触って。そして――。
先を急く俺に先回りするように、両手首はきつく握られたまま、びくともしなかった。
「ねえ綾瀬、おねだり、してみよっか」
「え?」
意地の悪い顔をした永礼。こういう行為をしているときの主導権はこいつにあるから、俺は逆らえない。と、俺は思っていたけれど、後で思い返せば、主導権はいつも俺にあった。
「何をしてほしい?」
その顔はきっと、体だけを求める俺への悲しみの顔だったのだろうけれど、当時の俺は気づかなかった。ただ、永礼がほしくて。
いや違う。
ただ、気持ち良くなりたくて。してほしくて。それだけだった。
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