朔太郎くんの隣には

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「あっ、やっと来た!ほら晴太こっちこっち~!」 碧の大声で、通行人や同じように駅前で待ち合わせをしているひとたちが、一斉に僕たちに注目してしまった。 「………碧、恥ずかしいから。それに、まだ待ち合わせ時間前でしょ」 「いやだってさぁ、久々の花火大会だぞ。テンション上がるだろ~」 ウキウキした碧を見て、ついつい笑ってしまう。 「うん、そうだよね。僕も楽しみで早く来ちゃったし」 「だろ?祭りは楽しまないとな~。みんな向こうで待ち合わせなんだろ?じゃ、行くか。……おいこら海、行くぞ」 碧の隣に座り込んでスマホを弄っていた海が、顔を上げて目を見開いた。 「………晴太、浴衣着てる」 「ああ、うん。父さんが張り切って買ってくれたからね……やっぱり可笑しい?」 ぶんぶんと首を振る海を見て、ホッとした。 八木橋先輩に誘われて、みんなで愛花先輩や朔太郎くんの地元で行われる大きな花火大会に行くことになった。 そう話した時の父さんを思い出す。 * 「なんだって!懐かしいなあ、昔家族三人で行ったことがあるの、晴ちゃんは覚えてないだろうなぁ」 父さんは懐かしそうに目を細め、飾られた母さんの写真を見つめていた。 「母さんなぁ、父さんが買ってあげた浴衣をすごく喜んでた。……綺麗だったなぁ」 ポツリと呟いた父さんの言葉に、母さんの笑顔が浮かんだ。 横顔が寂しそうで、何も言えなくなる。 しばらくして僕に顔を向けた父さんは、すっかりいつもの父さんに戻っていた。 「よし、晴ちゃんにも買ってやるからな。そうと決まったら、今から買いに行こうか」 男子高校生の僕が父親と連れ立って浴衣を買いに行くなんて、女の子みたいだと断りたかったけれど。 あんまり嬉しそうにしている父さんに、結局要らないとは言い出せなかった。 朔太郎くん……何て言うかな。
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