朔太郎くんの隣には

3/16
前へ
/432ページ
次へ
「晴ちゃん……可愛いなぁ。よし、父さんもお揃いにしよう」 てっきり既製品を買うのだと思っていたのに、父さんは迷わず反物から選び出した。 接客してくれる呉服屋さんの前で、僕は小さくなっていた。 だって、これじゃあ本当に女の子だ。 「あらあら、そちらもお似合いですよ。こちらの色違いもあてて見られませんか?」 優しい雰囲気のおばあさんが、ニコニコと接客をしてくれることが救いだった。 結局父さんとは色違いの反物を選び、あつらえてもらうことになった。 帰り道の父さんは行きよりもさらに上機嫌になっていて、仕事がはかどりそうだと嬉しそうに笑っていた。 * 「いーよなぁ、浴衣!俺も着たかったなぁ」 「碧も似合ってるよ………甚平」 元気いっぱいの碧には、とても良く似合っていると思う。 「………子供みたいだよね」 チラリと兄を見上げる海は、相変わらず変な色のコンタクトをして、左手に包帯を巻いていた。 暑くてかぶれないと良いけど。 「暑いから、早く電車に乗ろ」 ひとり言のように呟いて先に歩き出した海に、ニヤッと笑った碧が僕の耳元で囁いた。 「あいつ、朝からずっとソワソワしてたんだ。かわいーだろ」 「やっぱり……。花火大会、楽しみだったんだよね。海も誘って良かったね」 海にバレないように、僕たちはクスクスと笑い合った。 しっかり睨まれたけれど。
/432ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1593人が本棚に入れています
本棚に追加