1593人が本棚に入れています
本棚に追加
しばらく立花家の兄弟喧嘩を聞いていたら、あっと言う間に目的の駅に着いた。
改札を抜けて華やかな浴衣を着た女の子の集団を避け、キョロキョロと周りを見渡すけれど、みんなの姿が見えない。
約束の時間より少し早いから、まだ来ていないのかもしれない。
だった数日朔太郎くんに会えないだけで寂しさを感じていた僕は、少しがっかりしていた。
それでも早く会いたくて、諦めきれずに目で探してしまう。
「………晴太」
突然真後ろから聞こえた声に驚いた。
「………浴衣、可愛い」
身を屈め耳元で話しかけられて、可愛いともう一度囁かれた。
久しぶりに会えた嬉しさと、朔太郎くんの可愛い攻撃に顔が赤くなる。
「朔太郎くん」
振り向いた朔太郎くんの姿があまりにも格好良くて、やっと会えたのに言葉が出なかった。
「あれ?藤も浴衣着てんじゃん。なんだ、ふたりでお揃いか?」
碧がそんなことを言うから、余計に動揺してしまう。
「いや、たまたま一緒になった。じーさんが、着て行けって」
会ったこともないおじいさんに、お礼が言いたくなった。
背が高い朔太郎くんに良く似合う濃紺の浴衣に、うっとりと見惚れてしまう。
「そっか、似合ってんなぁ。やっぱ俺も浴衣が良かった」
「そうかい?立花君にはそれがよく似合っているが」
いつの間にか戸倉先輩が碧のすぐそばにいて、食い入るように碧を見つめていた。
最初のコメントを投稿しよう!