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「な、なんだよ、ガキっぽいとか言いてーの?」
碧、そこで口を尖らせたら本当に子供みたいだよ。
戸倉先輩が目を細めて、ククっと笑う。
「いや、いつも元気な君にはこちらの方がらしくていいと思っただけだよ。……浴衣もそそるだろうけどねぇ」
先輩の眼鏡がキラリと光る。
それを見た碧が、「げっ」と呟いていた。
「……嬉しい癖に」
こら海、また兄弟喧嘩になるからやめなさい。
「そういう君は着ないの?海君にもきっと似合うのに、残念だな」
「………あんたに関係ないだろ」
いつの間にか海の隣に八木橋先輩まで立っていた。
僕が朔太郎くんに気を取られていたから、気がつかなかったのかもしれない。
海は相変わらず八木橋先輩にキツい口のきき方をする。
先輩の方は全く気にしていないどころか、ちょっと楽しそうに見えるのが不思議だ。
八木橋先輩が振り返った。
「晴太君久しぶりだね。浴衣、よく似合ってる。可愛いね」
「八木橋先輩こんにちは。可愛いって……何言ってるんですか。地元ではちょっと恥ずかしかったんですけど、ここに来たら紛れるからホッとしました」
家を出る時は自分だけだったらどうしようかと、実は少し不安だった。
浴衣を着ると普段以上に自分が幼く見える気がして、だけど父さんの手前嫌だとも言えなかったから。
まさか朔太郎くんまで浴衣だなんて思っていなかったし。
偶然だけどお揃いみたいな気がして嬉しい。
自分の思考が乙女化してて、ちょっとどうかと思うけど。
朔太郎くんの浴衣姿を見るたびに口元が緩んでしまうのだから、これはもう、仕方がない。
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