朔太郎くんの隣には

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「あ、愛花と重森兄妹は向こうで合流するんだった。ごめんごめん、とりあえず行こうか」 しばらく海を揶揄って遊んでいた八木橋先輩が、やっと思い出したらしい。 海の「馬鹿じゃねーの……」という呟きを碧が兄らしくたしなめていた。 ぞろぞろとみんなで歩き出す。 大きな川で打ち上がる花火は、この近辺ではかなり規模の大きなものだ。 河川敷には屋台が連なり、空いた土手は花火の見物客ですぐに身動きが取れなくなる。 そうなる前に手分けして買い出しをすることになった。 まずは集合場所の確認をしなければならない。 むわっとした生温い風が吹き、人混みの熱気と混ざれば、不快な気分になるのが当然だと思う。 けれど周囲からは楽しそうな笑い声ばかりが聞こえてくる。 僕は着慣れない浴衣と下駄に早くも疲れていた。 にも関わらず、やっぱり気分は浮き足立っている。 朔太郎くんやみんなと花火大会に来ているという嬉しさが、疲れを上回っているらしい。 「この辺りの筈なんだけど……あ。いたいた!」 八木橋先輩の視線を辿った先に、重森さんのお兄さんがレジャーシートを広げて座っていた。 場所取りをしてくれていたらしい。 なんだか申し訳なくて、慌てて駆け寄ろうとすると、朔太郎くんに手を取られゆっくり歩いてと注意されてしまった。 まるで僕が碧を注意する時の口調だ。 子供みたいな行動が恥ずかしくて赤くなる僕に、朔太郎くんが可愛いと囁く。 こんなところでそんなことを言われると、どうしたらいいのか分からない。 無言で俯く僕の背中に触れた彼の大きな手の平が、じわりと熱を伝えた。 僕の熱も、伝わっているのだろうか。
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