朔太郎くんの隣には

12/16
前へ
/432ページ
次へ
僕の呼びかけが聞こえなかったのか、朔太郎くんは何も言わなかった。 ますます不安になる。 無言で先を歩いて行く朔太郎くんに、必死について行った。 「あれ?晴太たちは何買うの?俺ら適当に買ったから一旦置きに戻るけど……」 途中で碧に会ったけれど、朔太郎くんはどんどん先に行ってしまう。 「碧ごめんっ、これを海に渡しといて!みんなのもあるから」 人形焼を押し付けて、慌てて後を追った。 彼は背が高いから、人混みに見失っても直ぐに見つけられる。 カキ氷の屋台の前で、誰かと揉めている重森さんのお兄さんを見かけたけれど、声が掛けられなかった。 僕が行けばかえって邪魔になりそうだけど、心配だ。 重森さんと愛花先輩ともすれ違った。 華やかな浴衣で着飾ったふたりが、目を見開いて朔太郎くんを見つめている。 「おい大野、藤はどうしたんだ……?」 「晴太くん、あれは拗ねているだけだから気にしちゃダメよ」 ふたりに頷き、また朔太郎くんを探し歩く。 少し目を離した隙に、姿が見えなくなってしまった。 辺りはすっかり暗くなり、そろそろ花火が始まる時刻に近づいている。 愛花先輩は、彼が拗ねていると言っていたけれど。 僕にはわからなかった。 ただ朔太郎くんが機嫌を損ねていることだけは確かだ。 もしかして、先に帰ろうとしているのだろうか。 せっかく一緒に花火が見られると思ったのに。 とても楽しみにしていたのに。 賑やかな喧騒がどこか別の場所の出来事のような気がした。 自分の周りだけ、音が聞しない。 急に心細くなった。 朔太郎くんはどこに行ったんだろう……。
/432ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1593人が本棚に入れています
本棚に追加