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僕の呼びかけが聞こえなかったのか、朔太郎くんは何も言わなかった。
ますます不安になる。
無言で先を歩いて行く朔太郎くんに、必死について行った。
「あれ?晴太たちは何買うの?俺ら適当に買ったから一旦置きに戻るけど……」
途中で碧に会ったけれど、朔太郎くんはどんどん先に行ってしまう。
「碧ごめんっ、これを海に渡しといて!みんなのもあるから」
人形焼を押し付けて、慌てて後を追った。
彼は背が高いから、人混みに見失っても直ぐに見つけられる。
カキ氷の屋台の前で、誰かと揉めている重森さんのお兄さんを見かけたけれど、声が掛けられなかった。
僕が行けばかえって邪魔になりそうだけど、心配だ。
重森さんと愛花先輩ともすれ違った。
華やかな浴衣で着飾ったふたりが、目を見開いて朔太郎くんを見つめている。
「おい大野、藤はどうしたんだ……?」
「晴太くん、あれは拗ねているだけだから気にしちゃダメよ」
ふたりに頷き、また朔太郎くんを探し歩く。
少し目を離した隙に、姿が見えなくなってしまった。
辺りはすっかり暗くなり、そろそろ花火が始まる時刻に近づいている。
愛花先輩は、彼が拗ねていると言っていたけれど。
僕にはわからなかった。
ただ朔太郎くんが機嫌を損ねていることだけは確かだ。
もしかして、先に帰ろうとしているのだろうか。
せっかく一緒に花火が見られると思ったのに。
とても楽しみにしていたのに。
賑やかな喧騒がどこか別の場所の出来事のような気がした。
自分の周りだけ、音が聞しない。
急に心細くなった。
朔太郎くんはどこに行ったんだろう……。
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