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彼はどこに行くつもりなんだろう。
花火が見える河川敷からどんどん離れて行く。
ひとの気配も消えた暗闇で、朔太郎くんはようやく立ち止まった。
「晴太、ごめん。考えごとをしてた……」
だから僕を置いて先に行ったということだろうか。
それはあまりに酷いのではないかと思う。
ひと言文句でも言ってやろうと思ったのに、彼があまりにもシュンとしているから、怒りは一瞬で消えてしまった。
「………何を考えていたの?」
代わりに聞きたかったことを質問する。
愛花先輩は拗ねていると言っていた。
僕は、彼が怒っているように感じた。
本当は、何を考えていたんだろう。
「……晴太に嫌われたらどうしようって。巽が、言ってたから」
八木橋先輩の言葉を気にしていたのか。
確かに最近の朔太郎くんには、驚かされたりもするけれど。
「……そんなこと、ある訳ないよ。僕が朔太郎くんを嫌いになったりするわけないでしょ?」
こんなに好きなのに、彼には伝わらないものなんだろうか。
僕にはもうずっと、朔太郎くんしか見えていないのに。
「……自分でもやり過ぎだと思う。けど、止められない」
戸惑ったように顔を歪めた朔太郎くんは、もう一度ごめんと呟いた。
そんな彼を可愛いと思う。
確かにダメだよって止めないといけないことも多いけれど、僕を好きだという気持ちを隠さずに居てくれることに安心する。
僕はそれが嬉しいんだ。
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