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「約束する。もう、あんなことはしない。………振り返ったら晴太が居なくて、怖かった」
今が暗闇で良かったと思う。
僕の緩んだ顔を、朔太郎くんに見られなくて済むから。
「……花火、もう終わる?」
次々と打ち上がる音だけが聞こえてくる。
一緒に見たかったな。
「大丈夫。こっち」
朔太郎くんは僕の手を引き歩き出した。
どこに向かうのか見当もつかないけれど、黙ってそれについて行く。
緩やかな斜面を登り、最後に高さのあるコンクリートに引き上げられた。
ひとりで軽々と上がれる朔太郎くんが羨ましい。
「………大丈夫、晴太はそのままでいい」
何が大丈夫なのかは納得出来ないけれど、朔太郎くんがそう言うならそれで良いのかもしれない。
腰掛けてぶらぶらと揺れる足元に目をやると、遠くに連なる屋台やひとの波が映った。
「屋台からは遠いけど、花火は良く見える」
朔太郎くんの言う通りだった。
花火が打ち上がる度に、隣にいる朔太郎くんがキラキラと輝く。
見惚れてしまう。
桜並木の下で彼を好きになって、夏の夜空に浮かぶ大輪の花の下でまた心を奪われる。
次の季節には、どこで彼と過ごせるだろう。
最後に打ち上がった大きな花火に、ふたりで溜め息を吐いた。
光が消える瞬間、彼が顔を寄せて触れるだけのキスをする。
ずっと隣にいられることを願って、僕はもう一度目を閉じた。
*終*
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