第1章

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『どうやら自分は記憶喪失らしい』 世間では有名らしいSNSに、制限文字数10分の1の言葉を打ち込み投稿した。 『事故にあったらしい』 母親を名乗る人物から渡されていたスマートフォン。 何か思い出せたらすぐに連絡をと言われて渡されていた。 記憶には無いが、足も事故で動かなくなっていた。 その事についての悲しみや悔しさは、事故にあった記憶が無い自分には何処を探しても見つかりはしなくて、ただそうゆうモノなんだと、少しだけ不便に感じるだけだった。 『退屈』 そう、只々退屈だった。 車椅子に乗り、病室を出てすぐの休憩室へと向かう。 丁度2週間前、ここでジュースを買って外の景色を眺めているときに、たまたま居合わせた手術待ちの同い年の女の子にこのSNSを教えてもらった。彼女はこのSNSを毎日使っているそうだ。 その子には沢山友達が居たようで、彼女の呟きにはいつも複数のいいねが押されていた。 自分は違う。 彼女以外をフォローしなかったし、しようと言う気にもならなかった。 それに発信するというよりかは独り言にしたかった。だから鍵をかけた。 変わり映えない毎日があまりに暇すぎて、時折独り言を呟いてみた。 その度に何が良かったのかはわからないが、彼女は自分の呟きにいいねを押してくれていた。 けれど・・ 三日前から彼女からのいいねが途絶えた。 彼女の呟きも、三日前から途絶えていた。 今まで自分の病気というか、記憶喪失の事は黙っていた。 呟かなかっただけではなく、彼女にも伝えては無かった。 記憶が無い自分にとっては彼女の存在は大きく、だからそんな人気者の彼女に憧れ、対等な存在でありたいと思った。 『もう、会えないの?』 たった一人だけのフォロワーに見られもしない、独り言を呟く。 『今、いつもの休憩室に居るよ』 しかし、いいねは返って来ない。 『会いたい』 言葉にするのは恥ずかしいことを、どうしてか文字には書き起こせてしまう。 女々しいな。 気づけば今日も終わりが近づいていることを教えてくれるかのように、夕日が沈んでゆく。 そして車椅子の車輪を回し、病室へと戻ろうとしたその時だった。 『会いたい』という独りぼっちの呟きに、いいねが押されていた。 END
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