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ミツルは昨年まで植木屋で働いていた。しかし年が明けてから職を変えており、その事実はサヤカにもつい最近まで知らせていなかった。
「で、仕事が変わったから生活の心配はないと?」
瑠珂はミツルが淹れた温かいココアを啜りながら眉間に皺を寄せている。ミツルは勝手知ったるキッチンで洗い物を済ませ、手拭いを持ったままダイニングテーブルに戻ってきた。
「そう。植木屋は見習いだったから一人で生活するのがやっとだったけど、今は色々と手当が付くし、安い家賃で社宅を借りられるから」
「前の仕事に戻ったって言ってたけど、何?」
仕事の内容を問われてミツルは一瞬怯んだ。
「建設業だって」
サヤカが横から口を挟む。瑠珂は興味なさそうに「ふーん」と言うだけで、それ以上は深く聞いてこなかった。
(フォロー、されたのかな……?)
ミツルはちらりとサヤカを盗み見る。
(いや。サヤカさんも詳しくは知らないはずだ。何も聞かれないし、俺も話していないから……)
男を拐かすことを生業としていたサヤカは話術と外見だけを磨き上げてきただけではないらしい。そんな新たな発見をしているミツルの目の前で、瑠珂が空になったマグカップをテーブルに置く。
「どうせ俺に選択の余地なんて無いんだろ? 俺は後2年学校に通わなきゃいけないし」
観念したようだ。ミツルは小さくガッツポーズを取る。
「高校を卒業したら速攻で家を出るけどな」
瑠珂の一言に、ミツルは拳を握りしめたまま固まった。
「なんで?」
(そんなに嫌がらなくてもいいのに……!)
ミツルの考えていることは顔にそのまま出ていた。瑠珂は呆れつつ、それでも良心が痛むのか視線をテーブルの上に落とした。
「元々そのつもりだった。働いて自分で稼げるようになったら好きな所で暮らして好きなように生きる。いつまでもコイツの世話にはなりたくない」
(あ、俺と同じだ……)
瑠珂の言葉は少々乱暴だが、ミツルの目には瑠珂と学生だった頃の自分が重なって見えた。
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