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 はじめはドレッドヘア一人だけだったが、徐々に拍手の数が増えた。高幡順平は調子に乗って「どうもありがとう」なんて言っている。  人を殺す勢いで俺を殴る蹴るしていた春日は毒気を抜かれたような顔をしていた。そこに憐れみが含まれていると気付き、俺はその時になって焦り始めた。 「ちょ、まっ…。な、何、どういうこ……、」  切れた唇を庇ってなんとか絞り出すが、誰も聞いていない。  春日は短い髪を掻き毟って歩き出した。それに他の男達が続き、一人、また一人と去っていく。嵐を巻き起こした高幡順平さえ、その中に紛れて行ってしまった。  なんだったんだろう、いったい……。  地面に転がったまま暫く考えてみたが、頭の中が空っぽで何も考えられなかった。  痛みを堪えてゆっくり起き上がった。フェンスに背中を預けて座り、そこで目を瞠る。誰もいないと思っていた場所にドレッドヘアの男が一人だけ残っていた。  男は黙々とDSに打ち込んでいる。  しばらく見つめていると、男は一瞬だけ視線を上げてこちらを見た。 「厄介なのに目を付けられたな」 「…………」  ボタンを連打したまま立ち上がる。ゲーム機が壊れるんじゃないかってほど荒々しい。 「……。チッ、くそ!」  ゲームが中断したようで、男はDSを畳んだ。  浅黒い顔に切れ長の鋭い両目を光らせる。拳を振り回す春日とは違った意味で迫力があり、蛇に睨まれた蛙のように筋肉が緊縮した。 「まあ、お前の悪癖で困っていたのは男だけじゃないからな。自業自得だ。せいぜいがんばんな」  冷めた捨て台詞を残して男は明るい方へ歩き出す。そのまま去るものだと思われた背中が、校舎の角を曲がる前に振り返った。 「一つだけ忠告してやる。アイツは普段ヘラヘラ笑っているけど甘く見ない方がいいよ。あながち本当に、この先一生女が抱けなくなるかもな」  ドレッドヘアのサクラはこれまでの誰よりも卑屈な笑みを浮かべ、俺に恐怖を植え付けた。  背筋が震えた。油断すると手や足の先まで震え出す。  俺は頭を振り、先程の悪夢を消去にかかった。  体に残る痛み以外が、すべて白々しい嘘や笑えない冗談であると自分に言い聞かせた。
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