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「やっと出てきたね。待ってたよ」  通常音量の声が耳の奥に響く。のんびりとした甘ったるい声の主が誰か分かり、体が強張った。 「携帯を貸して」  言う前に奪われてしまう。 「な、にすんだ……、はなせっ!」 「お前、このクラスの誰にもケー番を教えてないんだもん。まいったよ」  威嚇しても、高幡順平には何の効果もない。背中の重みは消えるどころか圧力が増し、喉に筋張った腕が当たっていて息が苦しい。   「別のクラスの女子が知ってたんだけど、お前がヤッた女かと思うと聞きたくなくなっちゃった。へへっ」  陽気な笑い声を聞いた途端、背筋にゾゾゾッと悪寒が走った。シャツ越しに高幡順平の体温を感じ、鳥肌が治まらない。 「………。何これ。赤外線を使ってもケー番と名前しか届かないんだけど。しかもカタカナだし。ヤダなあ、もう」  高幡順平の声音が変わり、意外とあっさり背中から離れた。  息を大きく吸いこんで胸に酸素を送る。力が抜けてそのまま机に伏せた。  顔を教室の方に向けると、高幡順平は隣りの椅子に腰掛け、手に一つずつ携帯を持って同時に操作している。 「アー、面倒くせ。俺のケー番とメアドをお前の携帯に入れてたから後でメールして」  携帯が机の上に戻ってくる。  椅子から立ち上がり中腰になった高幡順平に顔を覗き込まれる。感情の読めない瞳に見つめられて固まった。  俺が表情を強張らせると高幡順平はへらりと笑い、俺のこめかみに貼っていた絆創膏を強引に引き剥がした。 「いっ!」 「だいぶ良くなったけど、元の色男には遠いな」  隠していた青痣を押され、痛みに顔を顰める。  俺の嫌がる反応に満足したのか、高幡順平は口元を歪めて自分の席へ歩いていった。
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