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「今日の俺はツイてるなあ。朝から樋口の顔が見れるなんて」
案の定、担任のそんなふざけた一言で朝礼が始まった。ご機嫌なのは担任だけで誰一人として反応しない……と思ったが、独りだけ笑い声を上げた。高幡順平だ。教室内が余計に気まずい空気になった。
担任は早いテンポで出席をとり終えると、連絡事項を読み上げた。帰りのHRが終わった後、来月行われる球技大会の種目を決めるという。クラス中から一斉にブーイングが上がり、担任は途端に渋い表情になった。
「何度も言うが全員参加の学校行事だからな。勝手に帰るなよ」
学校を抜け出す生徒はそうそう居ない。大部分が俺に言っているように聞こえるが、一限目が始まる前に抜け出そうと考えている俺には関係なかった。
それにしても、なんでこんなことで騒げるのだろう。面白がって囃し立てる馬鹿な男子共の中には、当然高幡順平の声も混ざっていて耳障りだった。
「学年内で優勝したら、先生は全員にジュースをおごってくれるんだよね」
「あ? なんで俺の安月給でお前達にジュースを与えなきゃいけないんだ」
「ご褒美がないと張り合いが無いじゃん」
「そうだ、そうだ!」
「クラスが団結して親睦を深めるイベントだぞ。まとまりのないお前らにはいい機会だろ。褒美が無くても優勝を狙え」
「面白くねえの。当日は全員でボイコットするか?」
「だな」
「じゅんぺ~い。お前が言うと本当に悪ノリする奴が出るから止めなさい」
「ごめんね、先生」
高幡順平が戯けた調子で謝ると、クラス中で笑いが起きた。
まとまりがないなんて嘘だ。このクラスほど居心地の悪い場所はない。
「よし。それじゃあ今回は特別に球技大会の実行委員を順平に任命する。責任を持って取り仕切るように」
「えー! 学級委員の鈴木くんを差し置いてそんなことは出来ないよ」
またドッとクラスが沸いた。地味で存在の薄い学級委員さえ笑っている。
「種目別に全員の名前を埋めて、放課後提出するように」
「…………」
担任から手渡された用紙を、高幡順平は渋々受け取った。
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