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「よくない! よくない、よくない、よくない!」  高幡順平が傍若無人に騒ぎ立てる。そして、身体の向きをくるりと変え、俺の方に大股で近付いてきた。 「順平!」  担任の制する声をものともしない。高幡順平は俺の机の横に立ち止まると、俺の二の腕を掴んで引き上げた。  俺が「痛い」と叫ぶよりも先に、高幡順平が高らかに声を張る。 「俺たちは今付き合っているんだ! だからなんの問題もない!」  あまりにも突飛なことに頭の中がフリーズした。 「……お前は何を言ってるんだ?」  担任の声がやたらと冷静だったので、俺は我に返って辺りを見渡す。  クラスの全員がこちらを見て変な顔をしていた。冗談にしてもそれは笑えない……そんな声が聞こえてきそうだった。 「だから、付き合っているの! 樋口のことは俺が責任を持って見張るから、大丈夫だって何度も言ってるじゃん。信じろよ」  高幡順平は周りの微妙な空気なんてお構いなしに叫んだ。  ……本気で言ってるのか、コイツ。有り得ないんだけど。  そう思ったのは俺だけじゃないはずだ。担任は黙ったまま首を捻り、明らかに訝しんでいる。 「……。ま、いいや。とにかく今日の放課後は全員残れ。いいな」  ちょうどそこで予鈴が鳴った。担任は「やばい」と零し、慌てて教室を飛び出していく。姿が見えなくなった途端、高幡順平は俺の腕から手を離し、何事もなかったように自分の席に戻った。  誰もが戸惑い、誰もが違和感を抱いた筈なのに、誰一人として声を上げない。それは高幡順平が不気味なほどいつも通りだったからだ。
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